「ねえ、ここ行ってみたい!」
テレビに映し出されたのは、真っ白な家々が青い海に迫り出す、息を呑むほど美しい街並み。エーゲ海に浮かぶギリシャのサントリーニ島、その中でも特に美しいと名高いイア(Oia)の風景だった。
「サントリーニ島…?確かに綺麗だけど、なんで急に?」
婚約者の言葉に首を傾げると、彼女は画面の隅を指さした。そこには「Santorini Mini Golf」の文字。なんと、あの絶景の中にミニゴルフコースがあるというのだ。
ゴルフ好きの僕にとって、これほど魅力的な話はない。彼女の熱意に押され、僕たちの婚前旅行先はサントリーニ島に決定した。
ギリシャ神話の始まり?個性的なおじさんとの出会い
サントリーニ島に到着した僕たちは、早速イアの街を目指した。白い家々が迷路のように立ち並ぶ中、目指す「Santorini Mini Golf」は、想像よりもずっとこじんまりとした可愛らしい施設だった。
受付でクラブを借りようとすると、陽気なギリシャ音楽と共に、恰幅の良いおじさんが現れた。
「ヤッスー! ようこそサントリーニへ! ミニゴルフか? 最高の選択だ!」
ニコニコと輝く笑顔がまぶしい。太陽神アポロンを彷彿とさせる、そんな表現がぴったりのおじさんだった。
「君たちはハネムーンか? それともこれから愛を育むカップルかい?」
「え、あ、婚前旅行で…」
唐突な質問に戸惑っていると、おじさんは豪快に笑い飛ばした。
「ハッハッハ! そんなことはどうでもいい! 大事なのは、愛とゴルフを楽しむことだ!」
おじさんの言葉に、僕たちは自然と笑顔になった。
奇跡のチップイン! そこにいたのは…
コースに出ると、そこにはエーゲ海を臨む絶景が広がっていた。青い空、白い雲、そして紺碧の海。まるで絵画の中に迷い込んだような錯覚に陥る。
「すごい…こんな絶景の中でゴルフができるなんて!」
彼女は感動した様子で、しかしゴルフとなると真剣なまなざしになる。
「負けないんだから!」
「ああ、もちろん手加減なしだ!」
白熱する勝負。そして迎えた最終ホール、僕と彼女は互いにあとワンパットで決着という場面だった。
先に打ったのは彼女。ボールはカップの縁をくるりと回り、惜しくも入らない。
「ああー! 悔しい!」
「大丈夫、次は僕の番だ!」
集中力を高め、パターを構える。狙いを定め、スイング!ボールは綺麗な弧を描き、カップめがけて一直線に転がっていく。
カラン!
「やったー! チップインだ!」
思わずガッツポーズを取りながら、喜びを爆発させる。
「すごい! おめでとう!」
彼女も悔しさを滲ませながらも、笑顔で祝福してくれた。
「ブラボー! 見事なパットだ!」
そこに、聞き覚えのある声が響く。振り返ると、そこにはあのミニゴルフ場のおじさんの姿があった。
「君、才能があるな! 実はね、私は昔プロゴルファーを目指していてね…」
そこからおじさんは、自身のゴルフ遍歴や、サントリーニ島にミニゴルフ場を作った理由などを語り始めた。
聞けばおじさんは、かつてギリシャの大会で優勝するほどの腕前だったが、怪我でプロの道を諦めざるを得なかったという。それでもゴルフへの情熱を捨てきれず、この美しい島にミニゴルフ場を開いたそうだ。
「君たちのように、ゴルフを通じて笑顔になる人々を見るのが私の喜びなんだ」
おじさんの言葉に、胸が熱くなる。
サントリーニ島でのゴルフは、一生の思い出に
その後、僕たちはしばらくおじさんとゴルフ談義に花を咲かせた。プロ並みの腕前を持つおじさんから、パッティングのコツやコース攻略法などを教えてもらい、充実した時間を過ごした。
サントリーニ島でのゴルフは、美しい景色と、温かい人々との出会い、そして忘れられない思い出を与えてくれた。
ゴルフは時に、想像を超えた感動と出会いを運んでくれる。それは、スコアやテクニックでは決して測れない、ゴルフの持つ最大の魅力なのかもしれない。
【後書き】
この記事はフィクションであり、登場する人物・団体・名称等は架空のもので、実在のものとは一切関係ありません。サントリーニ島には実際に、「Santorini Mini Golf」というミニゴルフコースがあります。絶景スポットが数多く存在します。ぜひ一度、サントリーニ島を訪れて、その魅力を体感してみてください。
ちなみに、サントリーニ島は「ティーラ島」とも呼ばれており、正式名称は「ティーラ」です。「サントリーニ」という名称は、13世紀にラテン帝国によってつけられた名前が定着したと言われています。