
ゴルフは紳士淑女のスポーツ。スコアだけでなく、ルールとマナーを守ることもプレイヤーの大切な資質です。近年、テクノロジーの進化はゴルフ用具にも及び、特にグリーンを読むためのヤーデージブックは非常に高機能になりました。しかし、その進化が「グリーンを読むスキル」というゴルフ本来の面白さを損なう懸念から、新たなルールが導入されています。今回は、特に注目されている「 ヤーデージブック 」に関するルール違反(モデルローカルルールG-11)と、知っておくべきその他のルールについて分かりやすく解説します。
ヤーデージブックは進化したが…規制強化の背景
ヤーデージブック は、コースの距離やハザードの位置を知るための必須アイテムでした。しかし近年、グリーンの詳細な傾斜や芝目まで記載されたものが登場し、パッティングラインを読む際の強力な助けとなっています。これは便利ですが、一方で「自分の目と感覚でグリーンを読む」という、ゴルフの根源的なスキルや経験、判断力の重要性が薄れるという懸念が生まれました。そこで、USGA(全米ゴルフ協会)とR&A(英国ゴルフ協会)は、競技の公平性を保ち、プレイヤー自身のスキルを重視する目的で、グリーンリーディング資料の使用を制限する「モデルローカルルールG-11(MLR G-11)」を制定しました。
要注意!ヤーデージブックの新ルール「モデルローカルルールG-11」とは?
MLR G-11は、主にプロツアーやトップレベルのアマチュア競技で採用されているローカルルールです。一般のアマチュア競技では採用されていない場合もありますが、主要な競技に出場する方は必ず確認が必要です。JLPGA(日本女子プロゴルフ協会)でも採用されています。その主な制限内容は以下の通りです。
項目 | 制限内容 | 罰則 |
使用可能な資料 | 競技委員会が 承認したヤーデージブックやホールロケーションシートのみ 使用可能。委員会未承認のものは使用できません。 | 違反した場合、初回の違反は 2罰打。 |
ブックの仕様 | 承認されるブックは、通常 サイズ(約10.8cm x 17.8cm 以下)と縮尺(1:480 以下) に制限があります。承認ブックのグリーン図は、 著しい傾斜や段差など最小限の情報のみ 記載されます。 | 2回目の違反は 失格 となります。 |
手書きメモ | プレーヤーやキャディが 自身の経験や観察(練習ラウンド、テレビ観戦など) で得た情報のみ書き込み可能。 レベル(傾斜計)などの計測機器を用いて得た数値を書き込むことは禁止 されています。 |
このルールのポイントは、「自分のスキルでグリーンを読む」ことを促す点にあります。データに頼るのではなく、経験や感覚を研ぎ澄ませることが、より重要になるということです。
プロも陥る落とし穴:ヤーデージブック違反の実例
このMLR G-11は、トッププロでさえ違反してしまうことがある、少々複雑なルールです。
- コリン・モリカワ選手 (2023年 ヒーローワールドチャレンジ): キャディが練習グリーンでレベル(傾斜計)を使用し、その測定値をヤーデージブックに書き込みました。ここまでは違反ではありませんでしたが、その書き込んだ情報を本戦のグリーンを読む際に使用したため、MLR G-11違反と判定され、2罰打を受けました。使用したのが書き込んだ情報だった点が違反のポイントです。
- アレックス・チェイカ選手 (2022年 リージョンズ・トラディション / 2019年 ホンダ・クラシック): 2022年には委員会未承認のヤーデージブックを使用したことでMLR G-11違反により失格。2019年(MLR G-11導入前)にも、規定サイズを超える古いヤーデージブックを使用し、当時のグリーンリーディング資料に関する規則違反で失格となっています。
- 国内女子ツアーでの事例: 2025年のKKT杯バンテリンレディスオープンではアマチュア選手が、2024年のアクサレディスではプロ選手が、それぞれ委員会未承認の(前年まで使用可能だった)ヤーデージブックを使用したとして失格となりました。ルール変更への適応や確認の重要性を示す事例です。
これらの事例から、委員会が承認したヤーデージブックを使用すること、そして手書きメモの内容にも細心の注意を払う必要があることがわかります。
ヤーデージブック以外も!知っておきたいルール&マナー
ゴルフには、ヤーデージブック以外にも注意すべきルールや、日本特有のマナーがあります。うっかり違反しやすい例をいくつかご紹介します。
- アドバイスの禁止 (規則10.2a): プレーヤーやキャディは、競技者にアドバイス(クラブ選択やプレー方法に関する助言など)を与えることはできません。意図せずとも疑われる可能性があるため注意が必要です。
- 正しいドロップ: OBやペナルティエリアからの救済を受ける際、正しい基点から正しいリリーフエリア内にドロップする必要があります。誤った場所へのドロップは批判の対象となりえます。
- プレー線の改善禁止 (規則13-2): 自分のプレーの線上の状態を物理的に改善する行為(例:ティーグラウンドの芝を踏みつけるなど)は禁止されています。
- ボールのマーク (規則9.4b): グリーン上でボールを拾い上げる前には、必ずマークしなければなりません。基本的ながら忘れやすいルールです。
- 日本独自の文化・ローカルルール:
- 厳格なドレスコード: クラブハウス内ではジャケット着用が推奨されるなど、服装規定が厳しいコースが多いです。
- プレイング4: OBやロストボールの際に、前方の特設ティーから4打目としてプレーできるローカルルール。プレー進行を早める目的で設けられています。
- 昼食休憩: ハーフターンで長めの昼食休憩が必須のコースが多いです。
- キャディー・プレー形態: 高級コースではキャディ必須の場合や、シングルプレー(1人でのラウンド)が制限される場合があります。
- 厳格なドレスコード: クラブハウス内ではジャケット着用が推奨されるなど、服装規定が厳しいコースが多いです。
まとめ
ゴルフのルール、特にヤーデージブックに関する新しい規則(MLR G-11)は、一見複雑に感じるかもしれません。しかし、その背景にあるのは「ゴルフ本来のスキルを尊重する」という精神です。ルールを正しく理解し遵守することは、無用なペナルティを避け、スコアを守るだけでなく、ゲームの奥深さを味わうことにも繋がります。最新のルール情報を常に確認し、フェアプレーを心がけ、ゴルフを存分に楽しみましょう。